前記事でちょっと書いた、旦那の長年の友人R氏はドイツ系で、ドイツから移民してきた両親に育てられたため、ドイツ語もペラペラである。
かなり歳をとってから「お見合い」で年若いドイツ人女性と結婚し、孫のような息子二人を得た。
さて、彼らの家に遊びに行った時、うちの旦那が、彼ら夫婦の前で、私を指して、
「コレはメートル法推進信者で」
と言った。Rは「ひひひ」と笑った。彼は長年数学の先生をしているので、メートル法や摂氏には、その辺のアメリカ人よりずっと知識を持っているのだが、根本的には、馬鹿にしていた。
彼の奥さんはドイツ人であるから、私に大いに共感して、
「なんで水が212度で沸騰するの?おかしいわ」
という。私も、珍しく、アメリカで理解者を得た勢いで、
「水は0度で凍って100度で沸騰するのよ。シンプルでしょ。それの何が複雑なの? 世界中で華氏なんか使っているの、アメリカだけなのよ。アメリカ人間はまだ18世紀に住んでいるのね」
とたたみかけたら、R氏はまた「ケッケッケ」と笑い、
「華氏はね、intuitiveなんだよ」
と言う。「ぱっと見でわかる」、とか、「直感的に使いやすい」、といった意味だ。
華氏では、日常の温度が、0度から100度の範囲でほぼカバーされるから、それが便利だ、というのである。
例えば、華氏の0度は、摂氏のマイナス17度である。このくらい寒いのが、実際に体感できる真冬の最低気温だという。そして、華氏の100度は、摂氏の37.7度で、これを超えたら、高熱で病気だ、という判断基準になる、という。
私は、
「昨日、ワールドトレードセンター博物館に行ってきたの。ああいう施設は、世界中の人々に見て欲しいと思って作っているんでしょ? それなのに、単位は全部、平方フィートとかばっか。メートル法なんて微塵も使っていないのよ。アメリカ人は、外国からきた人々に対する配慮はないの?」
と聞いた。そうしたらまたR氏は「ケッケッケ」と笑い、
「配慮?配慮、はあるよ。でも」
と言って結論は言わなかった。私は、
「フィートとガロン表示のあとで、かっこ( )でメートル法を書けばいいだけでしょ。どうしてそういう配慮をしないの?」
と言っても、馬の耳に念仏だった。
基本、アメリカ人らは、アメリカ以外の国のことは、全く興味がないので、「配慮」もクソもないのである。
アメリカに来たら、アメリカに従え、この一点である。というか、メートル法や摂氏の存在自体、知らないのであろう。
国際空港であっても、機内持ち込み可能なカバンの大きさは、インチでしか表示がない。