老いから死へ

有名犬のわさおが、とうとう、旅立ったそうだ。秋田犬で、推定だけど13歳くらいは、大型犬として、天寿を全うしたと言って良いのであろう。菊谷さんのお母さんに拾われ、思いもかけないスターになったわさお。あのお母さんに拾われなかったら、野犬のまま処分されていたかもしれない。たまたま先週かそこら、NHKの「家族に乾杯」という番組に出ていたので、他のシーンは全部カットし、わさおのシーンだけに編集し、何遍も見たところだった。

ご冥福を祈る。天国で、お母さんや妻のつばきちゃんと再会したかな。

 

わさおも、最後は足腰が立たなくなり、おむつをつけた映像を見た。誰でもそうなるんだよね。悲しいけど。

 

人間の話になるが、長年、さまざまな番組を司会していたみのもんたさんは、最後の番組「ケンミンショー」もリタイアし、同い年の久米宏さんも、最後のラジオ番組を終了することを発表した。お二人とも「しゃべりの権化」のような方たちで、脳の回転っぷりときたら、凡人が逆立ちしてもかなわないほどだと思うのだが、それでも老いは平等にやってくる。みのさんは番組の最後の方はほとんどしゃべっていなかったし、久米さんも「言い間違いが増えた」とおっしゃっていた。ただ、75歳まで働くって、とてつもないことなんだけど。

 

しかし、どうして生物のうち、人間だけが、生殖能力がなくなったあとも、延々生き続けているのだろう?

 

これは、コロナの流行前に見た光景。よく行くスーパーで、レジ前にずらっと客が並んでいた。私の前の前は80過ぎにみえる高齢男性であった。その人の番が来て、レジ打ちが終わり、「●●円です」と言われたとき、そのおじいさんたら、やおら、ゆーっくりと財布を取り出すではないか。

「順番を待っている間に財布を出しておけよ、このジジイ」

と私は思ったが、怒るのはまだ早かった。驚いたことにそのじいさん、ゆーっくり財布を取り出すと、次は、

「よっこらしょ」

と言って、レジの台の上に、尻を降ろしてしまったのである。もう、びっくりしたのなんの。レジの女性も、目が点になっていた。それから、おもむろに、財布を開いて、ゆーっくりと札を取り出していた。

 

それから、これは別のおじいさんの話。

巷で、しばしば、体の半身が硬直し、反対側の手に杖を持って、ゆーっくり、ゆーっくりと歩く人(といってもほとんど高齢男性)を見かける。盛りの頃から、いろいろ不摂生をして、脳に来るまで生活習慣病などを放置していた結果だろうか。

ともあれ、先日、とあるショッピングセンターで見かけたそういうおじいさんは、むこうからゆーっくりゆーっくり歩いてきたけど、行く手の先に、「ここに立ち入らないでください」という趣意の、金属のポールが4本くらい立てられていた。互いのポールは鎖でつながっているものである。

私は、このおじいさん、ポールをよけるために、30cmくらい左に進路をずらすのだろう、と思って見ていた。そうしたら、そのポールの前まで来ると、じいさん、杖の先で、ポールを右に追いやったのである。

私はこれにもびっくりしてしまった。体の進路をちょっと左にずらすより、軽くもないポールを右にずらす方を選択するとは。それほど自分の進路を変更したくないのか、変更するのが困難なのか。

そのあと、私は何の義務もないけど、ポールを元の位置に戻しておいた。