旅行女

我が実家は、父の給料が安かったし、もともと出不精だったり、父は家で酒飲んでごろんと寝るのが一番幸せだったりしたせいもあり、旅行に行くということが少なかった。

ずっと、実家の写真を整理しているのだが、まあ、旅行のシーンが少ないこと。

昔は今みたいに誰でも気軽に写真を撮れる時代ではなく、カメラは高価で一家に一台、フィルムを写真屋さんに現像してもらわなければならなかったとはいえ、フィルム1巻き終わるのに1年くらいかかったこともある。

 

そんな私が、何を思ったか、テレビCMで有名になったアメリカ系のクレジットカード会社に就職したら、まあ、周囲から浮いたのなんの。その会社は、有給休暇のすべてを注ぎ込んで海外旅行に行く人たちばっかりだったのである。私の父なんか、盆と正月しか休まない人だったから、みんなが働いている時に休暇を取って旅行にいくなんて絶対ありえなかった。しかし、その転職先は、

「国内旅行より海外の方が安いのよ」

って言う人ばっかりで、私は完全に「ここはどこ?私は誰?」状態であった。実際、「私は、生まれてから飛行機に乗ったことがない」と正直に告白したら、狂人扱いされた。

だって、我が実家にとって、海外旅行なんて「遣唐使、遣隋使」レベルだったんだもん。

 

そんな化石の私がアメリカ人と結婚、なんて、神様のいたずらとしか思いようがない。

もっと笑っちゃうのは、その彼の実家も、お父さんが超スーパーどケチで、NYの地下鉄で最低料金を上回るところには絶対連れて行ってくれず、夏休みにもどこにも連れて行ってもらった経験がない育ちだったのである。NY育ちなのに、自由の女神にすら連れて行ってもらったことがなかった。国は違っていても、生活環境が似ていることの方が、夫婦になるにあたっては、すごく大事な要素だ。ま~、私の実家はここまでひどくなかったけどね。

 

私の友人に、旅行女がいる。人生のすべてを旅行に賭けている。

結婚しない実家暮らしなので、給料の余裕部分はすべて旅行に注ぎ込み、これまで地球上で行ったのは100カ国を超えるだろう。

そんな彼女だから、今回のGo toトラベルは絶対利用するだろうなあ、と思ったら、案の定、LINEで「北海道にいます」と写真を送ってきた。

旅行、ねえ。我が実家は「お金がかかるし、疲れるし」というnegativeタイプ。

しかし、親戚に羽振りのいい一家がいて、その家の主婦は我が実家を見下してやまなかった。しかも彼女は、横浜すら滅多に出ない私の両親に向かって、

「なんでいつも家にいるの? イタリアはいいわよ、イタリアに行きなさいよ」

などと煽った。あの人も、上述の私の友人同様、旅行に行かない人間なんてキチガイに見えるんだろう。

 

ちなみに、上述の友人は、あまりに旅行のため会社を休むから、会社から退職勧告を受けたことがある。

それでも旅行せずには生きて行かれない身だし、外資系勤務だから転職先には困らなかったのだろう。

そこまでしても旅行に賭ける人って、我が実家の血では理解できないなあ。

人は、みんな違う。実に違う。