船乗りの妻

ふっと思ったのだが、現役生活のほとんどを洋上で過ごす船乗りの男どもって、結婚しているのだろうか。

していても、戸籍の上だけで、夫婦としての実生活は乏しく、60過ぎて引退して、いざ二人で毎日暮らせるようになっても、却ってぎくしゃくしてしまわないだろうか?

 

なんてことを思ったのは、実家の近くに、船乗りの奥さんだった人がいるからだ。

もう相当高齢の未亡人。人から聞いたところでは、旦那さんから、

「●月×日、神戸に寄港する」

などと打電を受けると、神戸のホテルを予約し、そこに行き、夫と会って夫婦関係を持つのだそうだ。

もちろん、船乗りだって休暇はあるけれど、休暇と休暇のインターバルってどのくらいなのだろう。

その奥さんだった人は、幸い、息子はいるそうだけど、ほとんど母子家庭みたいなものではないか。

妊娠、入院や出産も全部一人でこなさないといけないのだろうなあ。育児しかり。

たまにしか家に帰ってこないお父さんを、子供はどう思っているのだろう。

しかし、日頃は、黙っていても夫からお金が入るし、それこそ「亭主元気で留守がいい」を謳歌でき、案外悪くはないのだろうか。

 

その未亡人、いまは、息子にも見捨てられ、ひどく貧しい暮らしをしていると、その人の世話をしている世話焼き婦人から聞いた。

「桃実さん、亡くなったお母さんの服とかない?」

と聞かれたので、私の体のサイズに合わない母の古着を10着以上譲った。見たこともない船乗り未亡人だけど、もし役に立てたら、捨てるより幸い。