ぎょっとする人に会ってしまった話

私が若いころは、企業の採用なんて、まずは男が優先で、女はその穴埋めにぽつぽつと雇われるだけだった。

今はいいなあ。男女雇用機会は均等だし、セクハラを受けたらすぐ抗議できる。

私の若い頃は、セクハラなんて言葉すら、なかった。

男の人からいやらしいことを言われたりされたりしても、女性社員は地位が低かったので、ヒクヒク笑って耐えていなければならなかった。

 

大昔勤めていたA社に、かろうじてまだ友人がいる。彼女はやたら社交範囲が広い人で、彼女の自宅の女子会パーティーに私めも招いてもらったとき、とんでもない人と会ってしまった。

他の出席者は全然知らない人ばかりだったので、その人の名前を聞いたら、なんとなんと、私のことを大っ嫌いで私も大嫌いだった上司と、お互い再婚同士で社内結婚した女性だった。

その上司だった男は、いまでいうセクハラ常習犯だったのである。

「よくあんなどスケベ男と好き好んで再婚する女がいるものだ」

と私は不思議で仕方がなかったが、その不思議で仕方がない女と、友人の家でばったり出くわしてしまったのである。もちろん、彼女自身にも、そして招いてくれた私の友人にも、まったく落ち度はない。

しかし、昔のトラウマが頭をもたげてしまい、私がそのパーティーを楽しめるまで、ずいぶんと落ち着く時間が必要だった。

その上司は、私の胸が大きいと知ると、

「バストいくつあるの?」

と平気で聞いてきたし、何かにつけて私の胸の話をした。果ては、飲み会の場で、

「その豊満な乳房を使って何か芸をしろ」

と言われたこともある。終業の5時を過ぎると、急に、ひわいな4文字言葉を口にし出すし、「この前、ストリップを見に行ったら、踊り子さんが<ひわいな4文字言葉>を触らせてくれた」とか自慢していた。

今だったら、完全にアウトなんだけどな。

ましてや、私は、頭の古い母から「男の人は全部女より偉い」というしつけを受けて育った身である。不愉快だ、と感じることすら悪いことなんだ、これを笑って流さなければ大人じゃないんだ、と思い込まされていた。

 

あの奥さん、パーティー後、家に帰って、

「昔、あなたの部下だった桃実さんって人に会ったわ」

と伝えたとき、どんな反応をしたかなあ。

彼女は、私が見たくもないのに、夫となったその男の現在の写真を見せてくれた。その男も、いまはすっかり老い、犬とともにおとなしくすごしているとか言っていたけど、でも、やっぱり、顔は同じ。過去の思い出がフラッシュバックして、そのパーティー中、その人とはそれ以上話さなかった。

過去にどんなひどいことを言われても、彼女の落ち度ではないし、座を白けさせるのは非礼だ。それとも、過去の恨み辛みを晴らすため、ありったけ当時の行状をぶっちゃけてやればよかったかしら。