音響機器メーカー

両親の育ちを知れば仕方ないことなのだが、私の実家には、音楽を聴くという習慣や行為がなかった。

 

ほぼ唯一の例外だったのは、土曜日の午後だったか日曜日の午後だったか、当時は民放で「民謡番組」というものがあって、両親がそれにあわせて歌っていたことだった。これを見ていると、

「うちの両親って、よその親より年を取っているんだなあ」

と悟った。私は民謡なんか大っ嫌いだった。そのくせ、アイドルがテレビで歌っていると、両親はなぜか必死になってけなすのである。だから私は、子供心に、

「芸能人って、好きになってはいけないんだ。悪いことなんだ」

と信じていた。だから、学校で、友達が、ヒロミが好き、ヒデキが好きと言い合っているところには、絶対に入っていけなかった。

なぜ、ああいう両親だったのだろう。

 

そんな環境で育ったので、家にステレオがある子なんて、まるで外国人だった。レコードを何枚も何枚も持っていたりすると、もう、私にとっては到底信じられない事態でしかなかった。

そもそも、当時のステレオは、テレビよりでかくて、私の育った家のように、狭いと置けないしろものだった。

 

さて、「オンキョー」という、そのものずばりの音響機器メーカーがあったけれど、いろいろ合併を繰り返し、紆余曲折を経ながらも、ついに債務超過により、この7月上場廃止になる見通しだという。

私にはうとい分野だけど、ほかの音響機器メーカーといえば、

 

「山水(サンスイ)電気」「Kenwood(旧トリオ)」

 

などがあったはず。

しかし、いま調べてみたら、山水は2014年に経営破綻しており、Kenwoodは日本ビクターとともにJVCケンウッドに吸収合併され解散、とある。

よくわからないけど、とにかく潰れるか吸収されるかの様態で、それ専業では立ちゆかなくなったことは確かだ。

 

だって、誰も、インターネットで音楽をダウンロードし、スマホやPCで音楽が聴ける時代になるなんて、思っていなかったものね。

家電量販店に行くと、まだステレオやミニコンポは売られている。でも、ごく一部の人の趣味の品になってしまった感じもする。レコードはおろか、CDだって過去の物になりつつあるし。スマホからBluetoothにつなげれば、私レベルでは音として十分。