男にすれば、「ものすごく気を遣って、親切で言っているつもり」らしいが、逆に妻(女)をぶち切れさせる言葉がある。
「(何か)簡単なものでいいよ」
だ。
ちょっと参考になりそうなママ漫画がある。
このお父さん、「母さん、簡単につまみでも作ってくれ」と、気を遣って言っているつもりらしいが、「簡単」なら自分で冷蔵庫に行ってチーズでも出してくるとかすればいいのに、あくまで自分では手を動かさない。ついでに、子育てもしたことないくせに、「子供の世話が大変だろう」なんて、さも自分が育児に奮闘してきたような口調で言うから、妻の怒りを買ったという、非常にありがちなパターンである。
うちの亡父の場合、たまに、だが、母が田舎に帰っていなくなる時や、入院した時に、しばしばこう言った。
「パンでいいよ」
子供だった私は、これの意味がさっぱりわからなかった。というのも、パンのおかずの方が、ご飯のおかずより、用意するのがずっと面倒だったからだ。
我が家では、パンの時は、コーンスープを用意するのが定番だった。あと、卵料理とか揃えるなら、あらかじめ常備菜がかなりあるご飯食の方が、お味噌汁を作るだけで、作る側としては、簡単に済むのである。
あとで、母がこっそり教えてくれたことがある。
「お父さんの『パンでいいよ』っていうのは、焼いてない、ただの白い食パンを出せばいいよ、っていう意味なんだって」
んな、ばかな。
しかし、今思うと、父からしたら、「なんでパンでいい、って気を遣ってやっているのに、ご飯と味噌汁出すんだろう」と思っていたかもしれない。
かくも、日頃「料理」というものをしないオヤジ族というのは、「簡単でいいよ」の意味がわかっていない。
なぜなら、料理は技術だけの問題ではなく、いくら簡単でも、絶対に手間がかかるからだ。ご飯1杯出すのだって、米をといで、浸水させて、炊いて、という手間と時間がかかる。食べ終わったら洗って片付ける必要がある。そもそも、材料だって最初から全部そろっていない。
仮に、だけど、夫が妻に、
「お客さんが来るけど、簡単な物でいいから何か出してくれない?」
なんて言って、妻が本気で、「ふりかけご飯」「卵かけご飯」「カップ麺」なんて出してみたらいい。
「おいお前、もうちょっとマシなもの作れよ! オレが恥かくじゃねえか!」
って、怒るに決まっている。
「簡単でいいよ」の代わりに、せめて、
「いま、冷蔵庫に何か入っているかな。ハムかちくわとか、すぐ食べられるもの」
と言うとか、自分で缶詰をあけたり、ナッツ類を買ってくるとかすればいいのになあ。
ちゃんと料理した物を出して欲しいなら、「簡単なものでいいよ」は、絶対に言ってはならない地雷フレーズである。「何か作ってくれないかな」なら、まだまし。「何か簡単な物を」は、絶対にNG。
ちなみに、うちのアメリカ人旦那の場合は、私が、
「●●が食べたい? それとも◎◎がいい? ▲▲がいい?」
と聞いても、返事は必ずと言っていいほど、
「はい!」
の一語である。要は、何でも食うのである。
蛇足だが、女性が結婚相手を選ぶときは、その男の母親が、あまり料理上手でない方が助かる。