日米の弁護士資格

日本の司法試験、って、おっそろしく難しいものであった。

少なくとも、我が国に法科大学院が設立された2004年以前の、旧司法試験の時代なんて、10浪くらいする人もザラだった。

日本の司法試験は基本的に「落とす」試験であり、代わりに、受かれば、一生安泰の色合いがあった。

それに比べ、アメリカの司法試験は、むしろ「資格を与える」試験だと言われている。

受かったからと言って、一生安泰を保証されるわけではない。また、あまりに同業者が多いので、仕事の奪い合いになったり、弁護士なのに失業したり、俗に「ambulance chaser」とやゆされるように、救急車のあとを追いかけていって、交通事故の尻拭い訴訟などで生きているのもいる、とか。

それから、日本のように「司法書士」「社会保険労務士」「行政書士」といった細分化された職種はない。それらはみな、「弁護士」の仕事のようだ。

 

私がかつて勤めていた米国企業の法務部長は、スタンフォードという一流のロースクールを出たアメリカ人弁護士だったけど、まあ、まあ、これが、仕事できなかったの何のって。

この人には、英語の書き方以外、何を聞いてもあてにならないので、対顧客がらみの真剣な質問は、何でも外部の顧問弁護士事務所に尋ねていた。

ある時、とある顧客から、損害賠償請求が入った。

「御社のサービスにより、これこれこういう損害を被ったため、1200万円の損害賠償を請求します」

というものだった。それを受取った法務部長は、

「そんなことはない。当社にはそんなに賠償責任はない」

という説明を2回ほどFAXで(注:当時はまだメールがなかった)相手の代理人弁護士に送っていたが、3度目くらいで、もっと理詰めでもっときつい文章で(それでも相手は英語で書いてくれていたが)、1200万円の請求を申し立ててきた。

このアメリカ人上司はお手上げになり、私に、

「なんて反論したらいいか手伝ってくれ」

と泣きついてきた。私は、そのアメリカ人弁護士が先方に送ったFAX2通を読んで、「なんじゃ、この反論にもなっていない文章は?」とあきれた。ただ感情的に、「何度も言うが、そんなに払う必要はない」と主張しているだけの文章。

私は、自社のサービス約款をじっくり、じーっくり読んで、

「当社サービス約款第◎◎条および第△△条の規定により、あいくにながら、損害賠償限度額は、■■万円となります。お客様におかれましては、当社のサービスを利用することで、自動的に同約款にご同意いただいていることになっております。何卒ご理解を」

といったことを英語で書き、その仕事の出来ないアメリカ人上司に英語の文法だけチェックを依頼し、それをFAXした。そうしたら、先方の弁護士からのクレームはピタッと止まり、請求時効ギリギリになって、

「了解しました。では■■万円で応諾しますので、弊事務所へご送金ください」

と言ってきた。速攻で振り込み、一件落着させた。

 

弁護士ったって、日本人と違い、アメリカのカリフォルニアって州は、こんな程度の人でも合格させるのか、と思った。

 

その後、このアメリカ人上司は、私に対して、妙に腰が低くなった。

私をランチに誘って、

「あなたはvery smartだから、アメリカの弁護士試験を受けた方がいい。私が保証する」

と強く勧めてきたのだが、私はただ

「I  can't afford」(そんなカネない)

と言った。それで会話は終わった。

 

大体、あんな程度の回答を見て感激するようなレベルの男に勧められて、そんな途方もない挑戦をするほど私はバカじゃなかった。

言うまでもないが、というか、みなさん既にKKの件でよーくご存じの通り、アメリカのロースクールに行くには、すっごいカネがかかる。大金と引き換えに、真面目に勉強するなら資格を与えるよ、って感じなのかもしれない。

大体、弁護士としてアメリカで大成してカネをがっぽがっぽ稼げでいるならば、日本には住んでいないよな~。

 

KK君は、マコさんのおじいさまの葬儀に出たらしい。

おじいさま、草葉の陰でどう思っていらしたか。

ていうか、いつまで日本に居るの?