「頑固」ということ

私は、アメリカ人旦那にも、最初に就職したアメリカ系企業の上司からも、

「お前みたいな頑固者は見たことがない」

と罵倒されたことがある。が、なんでそれほど頑固よばわりされなきゃいけないのか、思いあたる箇所がなかった。

自分に経験と知識があった上で「こうした方がいい」と意見を言うと、女のそういう姿勢とか態度とかが男にとっては気にくわないことだったのかもしれない。

まだ30代前半のときには、あまり「表現のテクニック」みたいのを身につけていなかったので、その後、いろいろと本など読み、

「おだやかに言う」

「遠回しに言う」

「やんわりと気づかせる」

などの表現を、徐々に上司や同僚たちにはするようにした。

しかし結局、私のことを頑固者呼ばわりした上司は、私のことを「あなたは頭がいいから」と、私の意見を尊重するように変わって行ったし、彼は最終的にどえらい失敗をやらかし、日本を逃げるように去って行ったっけ。

男という物は、女に事実を指摘されるのが、不愉快というか、沽券にかかわる生き物らしい。今は時代が変わったかも知れないが、少なくとも、当時はそうだった。

そのうち私も年齢を重ねるにつれ、

「私の責任じゃないから、結果がどうなったって私には関係ないわ」

と悟るようになり、周囲の人が「Aだ」と言えば、「はい、はい、Aですね」とテキトーに引くようになってきた。

 

しかし、旦那の方は相変わらず私を頑固者といい、何かにパスワードを設定するときは、

「『ganko』にしておいたからね」

と言う。唯一、私のことを「あなたがそんなにflexibleだとは思わなかった」と驚愕したのは、アメリカに旅行中、彼と、彼の親族みんなで、「●●」の回し飲みをしたときである。私だったら、「ぎゃーっ」と叫んで拒否すると思っていたらしい。断っておくが、飲んでも美味しく何ともなかったけど、とにかく、男の言うことを黙って聞くのが「頑固(英語ではstubborn)」の対の姿勢らしかった。

 

頑固、で、いつも苦く思い出す記憶がある。亡母のことである。

亡母は、自分がお医者さんから処方された薬が良く効くと、私にむかって、

「あんたもこの薬飲みなさいよ。よく効くわよ」

と、しばしば強要した。

「それは、母を診た先生が母に合うように処方した薬でしょ?私に処方されたわけじゃないんだから、私が飲んだらいけないんだよ」

と諭しても、母は、

「んもう、あんたは頑固なんだから!」

と怒りまくったものである。こんな理不尽な「頑固」がどこにあるんだろう。旦那の場合もそうだが、私を頑固だと主張する方がズレていることだって多々あるのだ。

 

上に、「頑固」の英語は「stubborn」だと書いたが、最近、新しい単語を知った。「tenacious」と言う。

これは、「困難に遭っても粘り強くなしとげる」といった意味だ。「執拗な」「しつこい」というネガティブな意味もあるけれど、「粘り強く取り組む」というポジティブな意味はあるので、「stubborn」よりはいいかな。

旦那に、

「あんたは良く私をstubbornだというけど、tenaciousと言うように」

と言っておいたけど、でもやっぱり、古いタイプの男は、女が意見を主張することは好まないんだろうなあ。

やっぱ次に生まれるときは男に生まれたい。女はつまらん。