家庭の料理

子供の頃、おせちはあまり好きではなかった。ネットを見ても、あまり好きじゃないというコメントは結構見る。

しかし、亡母は、昭和の主婦よろしく、すさまじいスキルでおせちを全部手作りしていた。母の時代には、おせちを「買う」なんてありえなかった。私も高校生になると母とともに作った。

今は、もう、最小限のもののみ手作りする。

 

 

なますは、せっせと大根を刻む。人参はその重量の5%。

毎度書いているみたいだけど、いろんなレシピを見て、もっと人参の量が多いのにはびっくりする。5%で十分。

卵も、好きだから、ちゃんと漉してなめらかにしてから焼く。

この時期にしか出回らないくわいは、絶対に外せない。支那産のくわいの3~4倍くらいの値段だけど、絶対国産(これは埼玉産)を買う。

 

おせちを家で作らない、という人たちのコメントをネットで見たことがあるが、中に、

「父が好き嫌いが激しく、おせちの中身も嫌いな物ばっかりだから、作らなかった」

というのを見たときは、悲しくなった。私だったら、子供がいれば、文化を継承するために、夫が嫌いでも作るだろうなあ。

好き嫌いの多い人って、どうしてなんだろう?

お母さんがすごい料理下手でも、学校給食でいろいろ食べる機会は否が応でも持つと思うんだけどな。

 

私の親戚に、かつて、小さな工場を経営していた家があった。

そこでは、家族以外に、人を2名ほど雇っていたのだが、このうちの一人が、すさまじいほどの偏食で、食べられる物が片手で数えられるくらいしかなかった。家庭で営む工場なので、3食、主婦が全員に作っていたのだ(それもスゴイ)が、この主婦はいつでも、

「A君のご飯どうしよう、A君のご飯どうしよう」

と悩み抜いていた。

私だったら、A君が何を食おうと食うまいと、全員で食べる物を作り、

「A君、私は好き嫌いなんて許さないからね。いやなら食うな」

と突っぱねただろう。が、その主婦は、A君のために、違うおかずを作り続けたそうだ。

しかし、そのA君は、若くしてガンで他界してしまった。

 

その親戚の家に嫁いできたお嫁さんの兄上とその妻の話。

そのお嫁さんに会うと、ひとたび兄嫁の大馬鹿さに触れるならば、火山のように怒り、あきれるような話を噴出させるのが常だ。

その兄嫁、子供もいないのだが、一切、料理というものを作らない人だった。

そして、毎日、旦那の朝ご飯としておにぎり2個、それから、その他の食事もみんなコンビニに買いにいくのが習慣だったという。

お姑さんが、お嫁さんに、「ご飯くらい炊きなさい」と、米を送ったら、数年後、カビが生えている状態で発見された、という。

1年、365日、コンビニ飯。

その姓が「山崎」だとすると(仮名)、お姑さんに対しても、自分の夫のことを、

「ヤマちゃんが、ヤマちゃんが」

と呼ぶので、お姑さんが、

「主人が、とか、下の名前で○○さんが、とか呼びなさい」

とたしなめても、ずーっと「ヤマちゃん」と呼び続けるような嫁だった。

そのお兄さんも、若くしてガンで他界してしまった。

「一体、そんなお嫁さんのどこが良くてお兄さんは結婚していたの?」

と私が聞いても、彼女は首をプルプル横に振るだけで、わからない、と言った。

 

偏食の人が全員ガンなどの病気にかかる、とは言わないけれど、原因の一つにはなっているのではないか。

A君は言うなれば自業自得だけど、お兄さんは「妻害」だ。

今の時代、女性ばかりでなく、夫もご飯を作るのが望ましいけれど、でも、なんか「お袋の味」って言葉はなくならないで欲しい、と思うのは、古いのかな。コンビニの味、スーパーの味、デパ地下の味で育った人もすでに多いだろうけど、その家の味、子供たちが大きくなっても

「あれが食べたい」

と言って戻ってくるような家であったらいいな。