子供のころ、「茅葺き屋根の家」なんて言葉を聞くと、
「屋根を拭く?」
と、私はわけがわからなくなった。私は、枯れたカヤの束を手に持って、屋根の上に登り、ゴシゴシと雑巾のように拭くことだと解釈していた。そして、そのあとで、その束のカヤを屋根の上に乗せて、ああいった屋根ができるのだろう、と思っていた。しかし、「なぜ屋根をゴシゴシ拭く作業が必要なのか」という疑問は全く解消されなかった。
母にも、
「屋根をふく、ってなあに?」
と聞いたことがあるけれど、母は人に対して、きちんとした説明を省く傾向がある人だった。
「茅とかかわらで、屋根をふくことよ」
などとしか答えなかった。私はその「ふく」がわからなかったのだが、母から明快な答えをもらったことがない。今でも、白川郷などの集落が、村中総出で屋根を葺いている光景をTVで見ると、子供の時に抱いたこの疑問が必ず思い出される。
辞書の説明を引用する。
葺く=板、かや、瓦などで屋根を覆うこと
こう言われれば、はあ、そうですか、としか言いようが無いけれど、同音異義語のやたら多い日本語のこと、なぜこんな「拭く」と同音の動詞を作り、使うようになったのだろう。
話は変わるが、英米人の姓は、職業から来たものが多い。例えば、
Fisher =漁師
Baker =パン屋
Carpenter = 大工
Hunter =猟師
などなど、枚挙にいとまがない。
ところで、かつて英国に、初の女性首相となったサッチャー(Thatcher)さんがいたけれど、彼女の場合、旧姓がRobertsなので、夫側の姓であるが、そのThatcherは、まさに「屋根葺き」という意味であることを知った。動詞の「thatch」はまさに「屋根を(草で)葺く」という意味。ご夫君の先祖は屋根葺き職人だったらしい。イギリスにも屋根葺きという職業があったのだね。
ま、どうでも良いことを書いてしまった。しかしいまだ「葺く」という動詞がピンとこない。