タオル地の雑巾で思い出した亡母のこと

日本人は、年末になると、そわそわ忙しくし、掃除をしなければならないようにDNAに刷り込まれているらしい。

でも、私は日頃からちょこちょこ掃除をしているし、部屋を汚すような子供がいるわけでもないので、年末の寒い時期に大々的に掃除をすることはここ数年、ない。

それでも、古くなったタオル地で、雑巾をつくってある。

 

いま雑巾におろしたのは、もともと、亡母が老人ホームに入居していたときに使っていたタオルだ。

厚手で、色の濃いタオル数枚。かつては、タオルというと、汚れが目立つように白地のものを好んで買っていたのだが、亡母については、ある理由で、濃い色つきのものを買っていた。

 

その理由とは・・・

 

母が亡くなるまで入居していたホームは、スペースがきわめて限られており、日中は入居者全員、テーブルを囲んで椅子に座っていた。

亡母は、しょっちゅう痰が出たり、鼻水が出たりしていた。亡母のために、いつもティッシュペーパーを買ってストックしておくのは、私の仕事だった。亡母が座っていたテーブルの席には、いつも、亡母専用のティッシュの箱が置かれていた。

ホームの方で気を利かせてくれて、亡母が座っていた椅子のひじかけのところに、母用ゴミ袋として、小さなレジ袋を結びつけておいてくれた。亡母は、一日中、ティッシュを引っ張り出しては、ちょっと鼻をぬぐい、痰をふいては、その袋に押し込んでいた。

 

さて、私が週末に亡母に会いにホームに行くと、介護の方から、

「お母さま、タオルがないので、持ってきてくれませんか?」

と言われるようになった。私は「は?」であった。タオルは、規定以上の枚数を持ってきてある。しかも、名前もちゃんと書いてあるので、洗濯のあと仕分けしても間違えようがない。なぜ、亡母のタオルだけ頻繁になくなるのか見当もつかなかったが、仕方なく、タオルを買っては追加していた。

そのうち、その理由が判明した。私がそろえていたタオルは白地のもの。亡母はいつも、首にタオルを巻いていたのが、それを外して、ひじかけのゴミ袋に押し込んでいたのだ。白いタオルだから、ティッシュの色と識別がつかず、介護士さんも忙しいから、いちいち亡母のゴミ袋の中身など気にせず、ちょっとふくらんでいるわね、くらいの感覚で、ポイポイ捨てていたに違いない。

あ~~、そうかぁ~~、白い薄手のタオルだったから・・・

 

それで、私は、色が濃くて厚手のタオルと交換した。それ以降、タオルがなくなることはなかった。

 

アルツハイマーって、悲しい。ティッシュとタオルの区別すら付かなくなってしまった亡母。